現場の「対話力」を変える!
3者ロールプレイで学ぶ実践メディエーションセミナー
参加者紹介
- 藤咲 珠代さん (医療対話推進室 看護師長)
- 山崎 かおりさん (医療安全推進部 看護師長)
- 宮崎 歌津枝さん (医療安全推進部 看護師)

医療現場では、患者・医療者間の対話が、ときに大きな課題となることがあります。「医療コンフリクト・マネジメントセミナー」では、医療従事者に向けて、現場で役立つ実践的な対話スキルや新たな視点を提供しています。今回は、セミナーを受講された東京女子医科大学病院のみなさんに、セミナーでの学びや、それを日々の業務にどのように活かしているのかを伺いました。
- ※本記事の内容および参加者の情報は、2025年6月取材時点のものです。
患者さんやご家族の本当の想いが知りたい
- まずは、本セミナーを受講した目的を教えてください。
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山崎さん 私は医療安全推進部に所属し、インシデント報告を受けています。しかし、職員間では報告することが「取り調べられる」「責められる」といった、つらい思いをするというイメージがすごく大きいんです。インシデント報告は、再発防止のために出してもらっているので、みんなで前向きに考えられるような対話力を身につけたいと思い、受講しました。
藤咲さん 私は宮崎さんからの紹介で受講しました。私は医療対話推進室に所属しており、医療者と患者さんとの間に生じた齟齬が、解消困難になったという相談が次々と寄せられます。日々、非常に悩みながら対応にあたっています。このセミナーで、困った状況での具体的な対応方法を学んだり、参加者同士で経験を分かち合ったりできるのではないかと期待しました。
宮崎さん 私は当時、病棟の師長として、自部署のスタッフの教育をするために、自分自身の対話スキルを身につけたいと思い受講しました。きっかけは、常に医師や看護師に怒っている患者さんのご家族との出会いです。私は、ご家族とたびたび話をして、怒りの奥底にある本当の思いは何だろうと考えながら、なんとか少しでも信頼関係を修復できないかと思っていました。しかし、良い方向に向かうことはなく、スタッフも毎日気を遣って困り果てていました。もしかしたら、私たちの対応に問題があるのかもしれないと考え、解決するには、まずは自分が知識を得てスキルアップしないと、スタッフの教育ができないと思ったのです。

ロールプレイは難しさもあるけど、その分理解が深まって、とても楽しい
- 実際に本セミナーを受講した感想を教えてください。
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山崎さん 一番印象に残っているのは、患者・医療者・メディエーターの三者の立場を体験できるロールプレイです。患者役・医療者役・メディエーター役にそれぞれなりきってやってみると、医療者役のときは患者さんにわかってほしいからいろいろ説明するんですが、それが患者役になるとすごく言い訳されているような感じに聞こえて、全然受け入れられないんですよね。自分たちがよかれと思ってやっていたけれど、立場が変わると、こんなに受け止め方が変わるんだなというのがすごくよくわかりました。
あと、メディエーターがいると、医療者役でも患者役でもすごく話しやすくなり、その影響を強く感じました。メディエーターの立場でのロールプレイは、質問がすごく難しかったです。今後の自分の課題がよくわかったので、とてもいい研修だったなと思っています。
宮崎さん 私も山崎さんがおっしゃる通りで、このセミナーは理論だけでじゃなくて実践型であることが一番印象深いです。具体的な事例を基にしたロールプレイは、患者・医療者・メディエーターのそれぞれの立場を体験して、視点の違いを肌で感じました。特に、メディエーター役をやったときは、医療者と患者さんの間で中立でいることの難しさを実感しました。私は、どうしても医療職の目線で自分の考えや意見を言いたくなってしまうんですよね。ロールプレイは難しさもあるけど、その分、患者・医療者・メディエーターのそれぞれの立場への理解が深まって、とても楽しかったです。
- 本セミナーは、全国各地の医療機関から、看護師、医師、事務職などさまざまな職種の方に受講いただいています。受講者のみなさんとの交流はいかがでしたか?
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山崎さん 事務職の方ともお話する機会がありましたが、参加者の皆さんは意識が高く、また、私と同じような悩みを抱えているということが非常によくわかりました。みんなそれぞれ頑張っているけど、いろんな悩みがあって、思いがあって。そうした方々とお話しできたことは、すごく自分の刺激になって、元気もパワーももらえたなと思うので、貴重な機会でした。

質問の仕方や態度一つで、相手の反応が変わっていくことを実感
- 本セミナーでの学びを、どのように業務に活かしていますか?
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山崎さん 私は医療安全推進部なので、インシデント・アクシデント報告があったときに事実を確認するんですが、質問の仕方が意識して変わりました。例えば「もう少し詳しく教えていただけますか」と問いかけるなど、相手が話しやすいように聞いて、受け止めて、対話を促すような質問を心がけるようになりました。そうすることで、最初は硬かった表情が、「話していいんだな」と思ってもらえるとだんだん変わってきて、色々話していただけるようになり、インシデント以外の仕事の悩みまで打ち明けてくれるようになりました。自分自身の質問の仕方や、かかわり方で、相手の反応が変わっていくことを実感したので、学んだこと活かせるように日々意識してやっていこうと思いました。
藤咲さん ある時、医師から「対応に困っている患者さんがいるので来てほしい」と呼ばれて向かいました。すると、その患者さんは診察とは直接関係のない話を延々とされました。私は研修での学びを活かして、まずその話に耳を傾け、ふとしたタイミングで「大変でしたね。そのようなことがあったのですね」と、気持ちを受け止める言葉をかけました。すると、患者さんは受け入れられたと感じたのか、落ち着いてこちらの話を聞いてくださるようになりました。実は、担当の医師は専門外の症例だと判断し、お帰りいただきたいと考えていたようですが、その態度が患者さんには「話を聞いてもらえない」と受け取られていたんです。しかし、私が話を聞いたことで患者さんの態度が別人のように穏やかになり、その後の診察がスムーズに進みました。これは私にとって初めての経験で、感動しました。

院内にメディエーションを理解している仲間がいるのはすごく心強い
- 東京女子医科大学病院様からは、さまざまな職種の方に20名以上受講いただいています。院内に受講した方が多くいることで、どのような効果を感じていますか?
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藤咲さん 院内にメディエーションのことを理解している仲間がいるのはすごく心強いです。1人でメディエーションをがんばっている方とお話をしたことがあるのですが、その方はすごく不安でセミナーを受講したとおっしゃっていました。私は近くに同じメディエーションのことを理解し合えて、支え合える仲間がいてありがたいです。
宮崎さんセミナーに参加している人が複数人いることで、メディエーションに関する共通言語や価値観をいろいろと分かり合えるものがあります。対話の重要性を理解し、実践できる人が増え、互いに耳を傾け合う文化が院内で醸成されつつあると感じています。

- これから受講する方へのメッセージをお願いします。
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宮崎さん メディエーションって答えがないんです。このセミナーは、知識を教えてもらうだけではなく、多様な視点や価値観を持つ参加者とともに、それぞれの状況に応じた答えを探していく場だと考えます。一人で考え、自分自身と向き合うことも大切ですが、このセミナーで一緒に考え、新たな視点を見つけてみませんか。
山崎さん 現在、特に悩みがないという方にも、このセミナーをぜひ受講してほしいです。人と人との関わり合いにおいて大切なことが学べるので、今後に活かせると思います。